Interview成約インタビュー

数々の縁により出会い、結ばれた設備工事会社同士のM&A

数々の縁により出会い、結ばれた設備工事会社同士のM&A
譲渡企業
株式会社タカボリ設備代表取締役社長 高堀 光一 様
本社所在地
東京都港区
事業内容
給排水設備工事業
譲渡理由
財務改善、先行き不安、後継者不在
譲受企業
リック株式会社代表取締役社長 並木 一美 様、常務取締役 木島 庸成 様
本社所在地
東京都港区
事業内容
総合設備工事業
譲受理由
自社設備事業拡大
株式会社タカボリ設備は1978年の創業以来、会長の高堀賢一氏と代表取締役社長の高堀光一氏が二人三脚で経営を行い、着実に成長を遂げてきた設備施工管理会社だ。各種施設、ビルやマンションを中心に給排水衛生工事や、空調設備工事に特化したプロフェッショナル集団として、独自の存在感を発揮している。代表である高堀光一社長がM&Aの検討を始めたのは、これまで熱心に取り組んできた経営がどう評価されるのだろうかというふとした興味からであった。それが、ガス工事をメインに行う総合設備会社のリック株式会社との縁につながり、2024年2月、同社とのM&Aが成約に至った。二つの設備工事会社はどのようにして出会い、どのような経緯で結ばれたのか、タカボリ設備の代表取締役社長 高堀氏、リックの代表取締役社長の並木氏並びに常務取締役 木島氏に伺った。

設計から施工管理までを一気通貫で行う給排水設備工事会社、タカボリ設備

まずは高堀さん、御社の事業内容を教えてください

高堀氏:
給排水設備工事における現場監督がメインの仕事になります。現場監督だけでなく、図面を書く設計業務や見積業務も行っています。当社は従業員数8名の小規模な会社ですが、この規模感で設計から施工管理までを一括で対応できる会社は珍しいと思うので、そこは当社一番の強みであると自負しています。

なぜ今回M&Aをすることになったのでしょうか?

高堀氏:
正直、最初はM&Aをするつもりは全くありませんでした。担当アドバイザーの臼居さんに初めてお会いした時も、「やる気ないから」とお伝えしてすぐに解散しました。その後少し期間を空けて状況を聞かれた時も気持ちは変わらず、また更に期間を空けて、M&Aのプラットフォームに掲載してもいいかと聞かれました。その時は深く考えず、どうせ反応もないだろうと思ったのですが、軽い気持ちで「どうぞ」と返事をしました。すると、予想に反して数社から反応をいただき、その中で最もご縁のあったリックとお話を進めることになりました。

ペアキャピタルにお任せいただいた理由を教えてください

高堀氏:
臼居さんは嫌味がない方で好印象でした。初回の面談の際に、やる気がないからと伝えたものの逃げずに向き合ってくれて、かといって表立ってアピールしてこなかったのも良かったのかもしれません。ガツガツしすぎていなかったのも私にとってはありがたかったです。

お相手を決める上で大切にされていたことは何でしょうか?

高堀氏:
M&Aをした後も、社員がのびのびと働けるかどうかは大切にしていました。その点でリックは、話し合いを重ねる中で「社員が退職してしまうのが一番良くないよね」という思いを強く持たれているのを感じました。また、リックの社員の方とは仕事を通じて面識もあり、良い方ばかりで好印象だったので、良い社風の中で働けるイメージができました。

お相手としてリックを選んだ決め手を教えてください

高堀氏:
私には息子がいるものの、社内には後継者がいません。今回はリックが手を挙げてくれましたが、来年や再来年、5年後など、本格的に事業承継が必要になった時、現在と同じように手が挙がるだろうかと冷静になって考えると、タイミングとしては今なのではないかと思いました。面談でも当社の財務内容を見た上で、並木社長から「今は不安でも今後良くなっていくだろう」と言っていただいたり、私の生真面目な性格に寄り添い「もっと楽に考えましょう」と言っていただいたりして、それがとても助けになりました。その恩返しをするという意味でも、これからはリックの設備部門の一員として少しでもお役に立ち、利益を出して貢献していきたいと思ったのでグループに入ることを決めました。

成約に至るまでに印象に残っているエピソードはありますか?

高堀氏:
初回の面談の時に知って驚いたのですが、並木社長が東海大学工学部土木工学科のご出身で私と全く同じだったので、ただならぬご縁を感じました。更に、その時に意向表明を出していただきとても嬉しかったことも印象に残っています。このスピード感には臼居さんも驚いたのではないかと思います。

ご家族や従業員の方に本件の開示をしたときの反応はいかがでしたか?

高堀氏:
最初に伝えたのは妹と妻でした。妹からはM&Aによって社長を退任した友人の話を聞いていたのですが、「退任させられなくて良かったね」という言葉をかけてもらいました。妻は驚いてはいましたが、ねぎらいの言葉をかけてくれて、その時は思わず涙がこぼれました。その後、社員にも開示したのですが彼らも驚いていました。お相手がリックであることを伝えると、声に出して驚いていた人もいました。開示の際は結論だけ言えば良かったものの、話し始めてみると私なりに思うことが沢山あったようで、結局一人で一時間ほど話してしまいました。

M&A後、変化したことはありますか?

高堀氏:
リックの役員の皆さんからは優しくフォローしていただいています。私たちのペースに合わせてくれていることを感じる一方で、自分の中では「絶対に黒字を出す」という気持ちが強くなっています。社員にプレッシャーをかけるわけではありませんが、それが礼儀だと思っています。
以前は月々の返済に追われていましたが、現在はリックからのご支援もあり気持ち的には楽になったものの、ずっとこのままではいられないので気を引き締めていきたいです。成約後、年度初めの四半期は前年よりも受注が増えていて、個人的には良い流れが来ていると思うので、この流れを悪くしないようにしたいです。

今後の目標を教えてください

高堀氏:
まずは利益体質をつくることです。そして、リックの設備部門の一員として売上に貢献していきたいです。売上だけでなく、良い現場を精査して選んでいくことも大事だと思っています。昔は赤字現場を引き受けることも実際にありましたが、今後は利益を出すことを一番に考えた受注体制をとっていきたいです。

ガスを中心としたライフラインを支える総合設備工事会社、リック

それでは並木さん、木島さん、リックの事業内容を教えてください

木島氏:
ガス工事をメインに、道路や建物内のガス管を配管する仕事をしています。「溶接」という鋼管を繋ぐ技術力の高さを強みとして、給排水・空調・電気など幅広い工事に対応しています。ガス工事が主力ではありますが、それだけでは将来的に厳しいということで給排水設備工事にも注力しており、今後はさらに拡充していきたいと考えています。

今回のM&Aの目的は何だったのでしょうか?

木島氏:
前提として、若手の人材が建設業界になかなか入ってこないことが問題だと考えているので、M&Aをしないと会社を大きくするのは難しいと感じていました。そんな中で、給排水衛生部門を拡充するための人材を求めてM&Aを検討していました。
並木氏:
ガス工事を主力として142年続いてきましたが、ガス工事が永遠に伸びていくかというと現状難しいと思うので、会社をある程度発展させていく必要があります。そのためには、大きな受注の増加が見込める設備工事の会社とM&Aをしようと考えました。既に子会社に京葉工管という設備メインの会社があるのですが、そこと合わせて売上30~40億を達成し、会社として一段階成長を遂げたいと思い、お相手を探していました。

M&Aをするうえで重要視したことを教えてください

並木氏:
設備と言っても種類の異なる設備の会社は沢山あるので、希望条件にマッチする設備会社であることは重要でした。あとは人材です。社員がちゃんと(M&A後も)残ってくれること、年齢的にもこの先もまだまだ働ける人が多いことも重視していました。

タカボリ設備を譲り受けようと思った決め手は何でしょうか?

木島氏:
タカボリ設備は会社の位置が近いということもありましたし、一緒に仕事をしたこともあったので、どんな会社か分かっていたということは大きかったです。
並木氏:
会社の中身もある程度知っていたので話がスムーズに進んでいきました。中身と言っても、より深い部分となると分からないこともありましたが、そこはM&Aをしてみて初めて分かるものだと思っていました。タカボリ設備の社員の皆さんに実際に会うと、リックの営業担当者から話は聞いていましたが真面目で性格も良く、改めて良いお相手だと確信しました。

担当アドバイザーの印象はいかがでしたか?

木島氏:
レスポンスがとても早くて助かりました。こちらが気になることがあれば、タカボリ設備側にどのように考えているかも聞いてくれました。臼居さんがスピーディーに情報連携してくれたので、結果的にスピード感を持って成約できましたし、話しやすい雰囲気のおかげで楽に進められたと思います。

M&A後の状況や今後タカボリ設備に期待していることを教えてください

並木氏:
当社としては大きな変化はありませんが、関東での案件を一緒に対応していたりしています。タカボリ設備はとても真面目で、一つひとつの案件に真摯に向き合われる姿勢は大変素晴らしいと感じています。しかし、利益を出すためには取捨選択することも必要です。タカボリ設備の成長に伴いリックも更に発展していくと思うので、今後は利益率を重視した受注体制を築いてくれることを期待しています。

今後の目標及びM&Aの方針についてお聞かせください

並木氏:
タカボリ設備にリックの戦力となってもらうことが目下の目標です。
今後のM&Aについては、積極的に何社も譲り受けるようなことは考えていません。当社自体、過去に何度も合併を繰り返していたものですから、元々違う会社にいた人間が同じ会社の社員になることが大変だというのはよく理解しています。無理をした結果、しわ寄せがくるのは良くないので、徐々に検討していけたらと思っています。

最後にM&Aを検討する経営者の方にメッセージをお願いします

高堀氏:
悩んでいる方は沢山いらっしゃると思いますが、私と同様「まだまだできる」と思っている方も多いのではないかと思います。会社の強みを活かせる場所があるならば、タイミングやご縁は大事ですし、それに気付くか気付かないかはご本人次第だと思います。残りの人生、時間は有限ですし、タイミングもご縁もそんなに多いわけでもないと思うので、倒産したりして手遅れになってしまう前に、もう一度やり直せる場所があるならぜひそのチャンスを大事にしていただきたいです。
並木氏:
儲けを出すためのM&Aはしてほしくないと思っています。M&A後のことを考えず、儲けだけを目的に譲り受けられた会社はそれで良いのか、疑問が生まれます。M&Aをするならば、一緒になることで共に発展していけるM&Aをしてほしいと思います。
木島氏:
会社を譲り受けるということは、その会社の社員も含めて譲り受けるということになるので、社員の方がどう思うかが一番大事だと思っています。譲り受ける側としては、社員の方が一緒に働けるような環境づくりを一番に考えていただきたいと思います。

ありがとうございました。

担当アドバイザーコメント

現在、日本全国における建設業界の後継者不足は、非常に深刻な課題と捉えております。
2023年の建設業界経営者の平均年齢は60.5歳です。その中でも後継者不在率は63.4%とかなり高い水準であり、多くの企業様が喫緊で事業承継問題に直面してしまいます。
また近年の世界情勢から、資材高騰による原価増大・利益の圧迫が自社の経営に悪影響を及ぼしており、就労者の平均年齢が高齢化している影響や、新規人材の採用難で、慢性的な人材不足を経営課題に抱えていらっしゃる企業様が、今後も増え続ける可能性が非常に高いと思料しております。
そして、2024年4月1日以降、建設業では時間外労働の上限規制が適用され、働き方改革が推進されております。建設業では長時間労働や休日出勤が常態化していたため、適用までに5年の猶予期間が設けられていました。この猶予期間中に、国土交通省は「建設業働き方改革加速化プログラム」を策定し、建設業に向けて働き方改革を実現するための具体的な施策を提案しています。
上記様々な理由から重要な局面を迎えられる企業様が多いと考えてもおります。
今後の経営戦略・事業承継の選択肢のひとつとして、M&Aをご検討いただけますと幸いです。
臼居 隼
シニアヴァイスプレジデント臼居 隼
大学卒業後、大手金融機関に入社。
個人及び法人向け資金運用コンサルティング業務、オーナー経営者の相続対策等の業務に従事。
企業の存続や事業拡大、後継者不在の中小零細企業のM&Aによる社会的意義を実感し、税理士法人系M&Aアドバイザリー会社に転身を決意。M&Aアドバイザーとして業種・規模・エリアを問わず幅広く経験を積み、ペアキャピタルに入社後は、建設・建築関連業界の責任者を務める。

VIEW LIST