Interview成約インタビュー

奇跡的な出会いにより危機を乗り越えた、歯科向けシステム開発会社のM&A

奇跡的な出会いにより危機を乗り越えた、歯科向けシステム開発会社のM&A
譲渡企業
株式会社T.Creators代表取締役社長 中村 秀子 様
本社所在地
神奈川県横浜市
事業内容
歯科向けソフトウェアの開発・保守運用
譲渡理由
従業員の雇用確保、取引先との取引継続
譲受企業
株式会社ウィルアンドデンターフェイス代表取締役社長 浅野 誠司 様
本社所在地
東京都新宿区
事業内容
歯科向けソフトウェアの開発・保守運用
譲受理由
販路拡大、エンジニア採用
株式会社T.Creatorsは、歯科医院で用いられる電子カルテシステムの開発・保守運用を行い、充実したサポート体制により取引先との信頼関係を築いてきた。代表である中村秀子氏は、経営コンサルタントの父と共に経営を行っていたが、父の急逝により状況は一変。中村氏が取引先と顧客を守るため、状況を改善する策として選択したのがM&Aだった。T.Creatorsの譲受に手を挙げたのは、同業種の老舗企業である株式会社ウィルアンドデンターフェイスだ。歯科向けシステム開発という特殊な領域における2社が、どのような経緯で結ばれたのか、T.Creatorの代表取締役社長 中村氏、ウィルアンドデンターフェイスの代表取締役社長の浅野氏に伺った。

ユーザーと従業員を第一に考えM&Aという道を選んだT.Creators

まずは中村さん、御社の事業内容と設立から本件に至るまでの経緯を教えてください

中村氏:
歯科医院向けの電子カルテシステムの開発をしています。
設立の経緯としては、経営コンサルティングをしていた父から「会社を辞めて事業を立ち上げないか」と提案されたのが始まりです。私には経営に関する知識が全く無かったので一度は断ったものの、父の「サポートするから大丈夫」という言葉もあり、不安はありましたが立ち上げることにしました。しかし、立ち上げから間もなくして父が他界し、ソフトウェアの保守を委託していた会社が経営難に陥ってしまったことから、この先どうしたらいいのか分からず途方に暮れていました。それでもユーザーや従業員のためには、急に会社が倒産するようなことがあってはならないと思い、手探りで経営をしているような状態でした。

どのような思いから今回のM&Aをご決断されたのでしょうか?

中村氏:
ユーザーがいる限りは、電子カルテシステムを継続して利用できるようにするのと同時に、古いシステムなので新しいシステムに移行してもらうことが必要だと考えていました。そして、エンジニアとして働いてくれていた2人の従業員の雇用は何としても守りたかったので、藁にも縋る思いでM&Aという選択をしました。

ペアキャピタルにお任せいただいた理由を教えてください

中村氏:
M&Aに関するお話はこれまでもいくつか聞いていましたが、事業内容や経営状況についてお伝えするとそれ以降連絡が来なくなることが多かったので、正直なところあまり信用していませんでした。そんな時に鶴房さんからお電話をいただき、今回も同じ結果になるだろうと思いましたが、ダメ元でお話を聞くことにしました。実際にお話しすると鶴房さんはとても熱血な方で、何としてでも助けますという気持ちがダイレクトに伝わってきたので本当に驚きました。そんな風に手を差し伸べてもらえるとは思っていなかったので、最後のチャンスだと思いお願いすることにしました。

お相手探しで大切にされたポイントとW&Dに決めた理由を教えてください

中村氏:
ユーザーのため、従業員のためにM&Aをすることを考えていたので、そこを汲み取って引き受けていただける会社であるかどうかが一番重要でした。
その点、浅野社長はとても真摯に向き合ってくださり、今後どうしていくべきかを一生懸命に、まるで自分のことのように考えてくださいました。その気持ちが本当にありがたかったですし、そんな浅野社長とお会いできたのは奇跡だと思ったのでW&Dを選ばせていただきました。

ご従業員様に本件の開示をしたときの反応はいかがでしたか?

中村氏:
従業員2人に対しては、前々から会社を何とかしようと考えていることは伝えていたこともあって、実際にM&Aをするかもしれないと伝えた時は「仕方ないよね」という反応でした。最初は心配の声が上がることもありましたが、このままでは会社が危ないし、2人が職を失うことだけは避けたいので、それまでには何とかしたいと話していました。無事に話がまとまった時は2人とも受け入れてくれたものの、ユーザーへの対応や当時引き受けていた仕事のことなど妥協できない部分はあったようなので、浅野社長には相談させていただき、しっかり協議した上で最終的には全員が納得できる形にまとまりました。

M&A後のご状況を教えてください

中村氏:
最終的には会社を畳もうと考えているので、今は着々とその準備を進めています。それと私自身の話にはなりますが、以前は「会社を何とかしなければ」と考えすぎて全く眠れず、悪夢を見るような日々が続いていました。ですが今はちゃんと眠れるようになり、追い詰められるような怖い夢も見なくなりました。それは自分にとってとても嬉しい変化です。

今後の展望を教えてください

中村氏:
粛々と会社を終わらせて、従業員2人を無事に送り出すことに尽きると思っています。彼らはすでにW&Dに凄く馴染んでいると言っていただけているので、その調子で今後もさらに活躍していってくれることを、ただ願っています。

歯科向けシステム開発の老舗、ウィルアンドデンターフェイス

それでは浅野さん、御社の事業内容と本件に至るまでの経緯を教えてください

浅野氏:
T.Creatorsと同じく、歯科用の電子カルテの開発・販売・サポートをしています。
全国に6万以上ある歯科医院のうち、当社のユーザーは1000件程度と小さな会社ではありますが、1986年の創業から40年を迎えようとしている老舗と言える会社でもあります。私自身は先代社長の義理の息子にあたり、事業を引き継いだのは5年ほど前になります。先代が今まで築き上げてきた資産だけでこの先もやっていけるかというと、なかなか難しいと感じており、少しでも会社を大きくしていく責任が自分にはあると思っているというのが現在の状況です。

今回のM&Aの目的は何だったのでしょうか

浅野氏:
会社を大きくしていくことを考える中で、M&Aの話よりも前に「人を増やさなければ」という気持ちがありました。一方で採用の状況は厳しく、特に開発担当者となるとさらにハードルは高くなるので何か良い手はないかと考えていました。そんな時にT.Creatorsのことを知り、これはもしかしたらと思い、話が進んでいきました。

M&Aをするうえで重要視したことを教えてください

浅野氏:
開発担当者のスキルについては気にしていました。特に当社が取り扱うのは特殊なソフトなので、言語が合うかどうかは重要でした。
T.Creatorsとの話が進み始めてからは、同じ業界かつユーザーも同じ歯科医院なので、ユーザーが当社のソフトに切り替えることにご納得いただけるかどうかも重視していました。社員の方に対しては、例えばですが勤続1年が条件だとしても1年経ったら辞めるのではなく、ずっとW&Dで働き続けてほしいと考えていたので、その辺りは田中社長や鶴房さんにも間に入っていただいてよく確認作業をしていました。

T.Creatorsを譲り受けようと思った理由を教えてください

浅野氏:
T.Creatorsは、ユーザーに対して非常に丁寧に対応している会社だと感じたので、ユーザーへのサポートは重視している点で企業文化が合っていると思いました。また、開発担当者のスキルや言語が当社とマッチしていて、歯科特有の専門用語も理解した上で開発ができるので、M&A後もお互いスムーズに働けると思い、譲り受けることを決めました。

M&A後、変化したことはありますか?

浅野氏:
新しいソフトを開発していかなければならない状況の中で、T.Creatorsのお二人が加わったことによって、自社だけではスピード的にもスキル的にも進んでいなかった部分の進み具合が上がっています。さらに当社社員のスキルも伸びてきていて、開発担当者全体がレベルアップしていると感じるので、この状況がこのまま続いてくれたら嬉しいです。

今後の目標やM&Aの方針について教えてください

浅野氏:
今回のM&Aは人を採用したいという思いから始まり、偶然同業の会社を見つけて目的を果たせたという点では運が良かったと思います。しかし採用は今も難しい状況が続いています。開発以外にも営業等の人材も必要になりますので、良い案件があれば今後もM&Aを一つの手段として活用していきたいと考えています。
事業の面で言いますと、ずっと歯科向けにやってきたので柱は崩したくないのですが、同じ領域でも新たに派生できる商材やサービスをイメージできる会社があれば、ぜひご一緒したいと思っています。

最後にM&Aを検討する経営者の方にメッセージをお願いします

中村氏:
信じていれば大丈夫だということを伝えたいです。私自身、どうしたらいいのか分からず物凄く不安でしたが、田中社長も鶴房さんも一生懸命に動いてくれて、細かいことも逐一報告してくれたこともあって、安心してお任せすることができました。
相談する前は、ユーザーや従業員を守るよりも先に会社が倒れてしまうのではないかと心配していましたが、無事に良いお相手と出会うことができて本当に良かったと思っています。
浅野氏:
今回は色々と偶然が重なったケースだと思いますが、仲介会社の存在は本当に大きいと感じました。利益だけを求めるような仲介会社だと、最終的には上手くいかないと思います。ビジネスとして譲り受ける分にはいいかもしれませんが、私のようにそれだけではない経営者の方はきっと他にもいらっしゃると思うので、そんな方は二人三脚で進められる仲介会社を見つけることがベストだと思います。

ありがとうございました。

担当アドバイザーコメント

この度、歯科向け電子カルテシステムの販売を長年に渡って行う株式会社ウィルアンドデンターフェイス様とスキルの高い若手エンジニアが在籍する同業の株式会社T.Creators様のご支援をさせていただきました。
株式会社T.Creators様が今回電子カルテシステムの事業譲渡を検討された背景としては主に2つです。1つ目は事業の存続です。中村様のコメントでも記載がございますが、中村様自身創業当初から手探り状態で経営をされてきました。その為、長年経営状況が芳しくない状態が継続し、取引先様へのサポート・従業員の雇用継続が困難になる可能性が高まっていました。2つ目は、従業員の雇用確保です。経営不振により事業が存続できない状態に陥ってしまうと、従業員の雇用が継続できなくなる為、中村様としては何とか従業員の雇用を確保し、高いスキルを活かして活躍できるようなお相手を求めていらっしゃいました。
上記の中村様のお考えを伺った中で、今回の課題を全て解決していただけたのが株式会社ウィルアンドデンターフェイス様でした。都内の歯科向けに電子カルテシステムの販売を行い、業歴もある老舗企業です。株式会社T.Creators様とは同業である為、両社の事業の理解とシナジーについては一目瞭然でしたが、それ以上にウィルアンドデンターフェイス社の浅野社長のお人柄が魅力的で中村様が決断された最大の決め手かと思料します。エンジニアの活躍を期待して、全従業員様とも事前に面談を行い、譲受後も前向きに働いていただけるかを確りと全従業員と対話していてだきました。
双方が持つ強みを最大限に活かし、新たな可能性を追求することのできる素晴らしいM&Aに携わることができ大変嬉しく存じます。
陰ながらではございますが、今後のご両社の益々のご繁栄を心より祈念しております。将来を見据えた成長戦略、及び更なる可能性の追求のため、M&Aを選択肢の一つとしてご検討いただけますと幸いです。
鶴房 賢弥
ヴァイスプレジデント鶴房 賢弥
国立大学卒業後、組織人事コンサルティングファームにて新規営業に従事し、大手企業の人事制度や組織開発を支援。予算達成率1位を獲得。その後、フリーランスとして独立し、急成長中のスタートアップ企業における創業メンバーとして転職コーチングの営業やバックオフィス向けSaaSの新規事業立ち上げを経験。M&Aという視点から日本経済の底上げに寄与したいと決意し、ペアキャピタルに入社。ペアキャピタルでは製造業を中心に担当。

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